6カ国協議再開 孤立感深める日本
【北朝鮮の核問題に関する6カ国協議が再開した8日、日本の首席代表、佐々江賢一郎・外務省アジア大洋州局長は全体会合で、対北支援カードをちらつかせ、日朝関係の「実質的な進展」を目指す戦略を鮮明にした。しかし、米国が従来の姿勢を大きく変化させ、6カ国協議全体が合意への動きを強めるなかで、日本は孤立感を深めており極めて厳しい局面に直面している。
米、対北外交に軟化姿勢
各国は日朝関係を含む5つの作業部会設置でほぼ合意しているが、日本側は、設置だけでは拉致問題が前進したとはいえないとの立場だ。安倍晋三首相も8日、記者団に「作業部会を開いて話し合いができるのはいいことだが、北朝鮮が実際にそこで誠意ある対応をして、われわれも拉致問題の解決に向けて前進していると思えるようなものがなければ意味がない」と強調した。政府関係者は「前進とは、生存する拉致被害者が1人でも2人でも帰ってくることだ。そうでないと国民は納得しない」と解説する。
こうした日本の姿勢の背景には、作業部会が設置されても「北朝鮮は従来の『拉致問題は解決済み』という姿勢を変えないだろう」(外務省幹部)との根強い不信感がある。最低でも作業部会の初会合時期や協議内容、期限など具体的な行動計画が明示されないと、実質論議が先送りされるとの懸念もある。
ただ、頼みの米国が対北朝鮮外交で軟化姿勢をみせ、日本との間に微妙な距離が生じている。そして、北朝鮮がエネルギー・食糧支援を条件に核問題で譲歩すれば、日本を除く各国が北朝鮮への見返りで足並みをそろえる可能性は十分にある。り、そうなれば拉致問題が置き去りにされたまま「日本は支援負担を押しつけられかねない」(交渉筋)という懸念が現実のものとなる。
「本格的な対北支援のためには日本を外せないはずだ」(外務省筋)との強気の読みに基づき、果たしてどこまで「拉致」を押し通すことができるのか、日本にとり現実的な譲歩への圧力に苦悶(くもん)する交渉となっている】
6カ国協議 確かな核廃棄を譲るな
【北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議が8日、約1カ月半ぶりに再開された。北朝鮮の核廃棄を完全履行するための初期段階のプロセスで合意できるかどうかが最大の焦点となっている。
昨年12月の前回協議では、北朝鮮が米国の金融制裁解除にこだわり、何の進展もなかった。
今回は米朝両国代表が先月、ベルリンで直接対話を行って「一定の合意ができた」(北朝鮮側)とされる。北朝鮮が寧辺(ニョンビョン)の黒鉛炉など核施設の稼働停止や国際原子力機関(IAEA)の査察に応じる見返りに、5カ国がエネルギー支援に応じるような形で調整が行われる見通しだ。
05年9月の6カ国協議共同声明は、北朝鮮が保有する「すべての核兵器と現存する核計画の放棄」を約束した。核の全面放棄を実現しない限り、朝鮮半島の非核化と北東アジアの平和と安全も達成されない。議長国の中国は、そのための「初期段階のプロセス」と位置づけて、核活動の凍結とエネルギー・人道支援の提供で合意をめざすよう提案していた。
核活動の凍結や国際査察は、段階的に核の全面放棄へ進む上で避けて通れないステップではある。さらにその先へ進む足がかりとして、今回の協議が具体的措置につながるのであれば評価したい。
だが、懸念すべき問題もある。北朝鮮にどこまで見返りを与えるのが適切なのか。日米がこれまで緊密な連携を通じて展開してきた「対話と圧力」の運用に齟齬(そご)は生じないのか、といった点だ。
核凍結に対して見返りのエネルギー支援をするという構図は、94年の米朝枠組み合意を思い起こさせる。その後、北朝鮮はウラン濃縮活動に手を染めて約束を踏みにじり、枠組み合意も崩壊してしまった。北朝鮮は02年にそれを指摘されると、核拡散防止条約(NPT)脱退、核保有宣言へと進み、昨年10月には核実験強行にまでエスカレートした。
ベルリンの直接対話以降、米国の姿勢には目先の成果を出すために中国や北朝鮮の求めに譲歩しつつあるとの危惧(きぐ)もなくはない。だが、北朝鮮はすでに核を保有し、その状況を容認するような中途半端な結果となれば、問題は枠組み合意よりも悪化したことになる。イランの核問題にもあしき前例となりかねない。
協議を前進させる工夫は必要だが、米国の金融制裁、核実験に対する国連制裁、日本の単独制裁などは北朝鮮に着実な核放棄を迫るための重要なカードだった。枠組み合意以後の過ちを繰り返さないためにも、初期段階の見返りを考える場合には日本と米国がきちんと意見を調整する必要がある。
日本政府は「核、ミサイル、拉致問題の包括的な解決なしには日朝正常化はない」との原則の下に6カ国協議に臨んできた。エネルギー支援などが進めば拉致問題が置き去りになる恐れもあるが、日米中などの足並みが乱れれば北朝鮮の思うつぼになる。原則と協調を崩さずに、核廃棄の道を着実に進めなければならない】
8日から再開された6ヶ国協議だが、今回は「協議」とは言うものの、実質的には「ベルリンで行われた米朝会談の報告会」みたいなものである。この米朝会談については、概ね「アメリカの軟化」という見方がされており、各メディアから「日本は孤立するんじゃないか」という指摘が挙がっている。
上に紹介した毎日の社説も「日米中などの足並みが乱れれば北朝鮮の思うつぼになる。原則と協調を崩さずに、核廃棄の道を着実に進めなければならない」として文を締めくくっているが、果たして実際のところはどうなのだろう。アメリカが北朝鮮と交渉を行った時点で、既に足並みは乱れ始めていないだろうか。
第一北朝鮮にとっても、交渉する価値のある相手はアメリカしかいない。他の4国は口を挟むだけの野次馬同然である。しかも、協議の前にアメリカとの間で一定の合意がなされているとするならば、本来北は会議に出てくる必要すらなかったはずだろう。以前から6ヶ国協議の形骸化は指摘されてきたが、今回などはその際たるものと思われる。そんなものに「各国の協調が必要」などと言ったところで、虚しい響きでしかない。
今回日本は、自らの干渉できないところで作られた筋書きに乗せられようとしている。「協調」は日本人好みのフレーズではあるが、それにこだわり、筋書きにまんまと従うのでは、あらゆる問題の解決は一気に遠のき、国益を大いに損なう事は間違いないだろう。
こんな状況であればこそ、日本は孤立を恐れず、強気で主張するべきではないか。何しろ日本には「拉致問題が進展しない限り援助は行えない」という大義名分がある。たとえアメリカ様の手が入ったものであろうとも、こんな事後承諾も同然の合意や支援負担など、一切はねつけてしまえばよい。核や拉致の問題に関しては、日本はあくまでも迷惑を被っている側なのだ。妥協する必要はなく、だいたい現状を考えれば、6ヶ国協議で孤立する事がそんな問題になるかどうかすら疑わしいのである。
まぁ、実際に孤立してしまった場合、問題の解決には相応の外交力が求められる事は当然で、それを今の日本に期待できるかというとまた難しい。だが、国際社会に訴えるなどの手段が残されている以上、日本はその目的を達成するため、アメリカを含む各国に批判されようとも、決して揺らいだりしない事が大切である。…安倍首相はまず大丈夫だとは思うのだが。
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