東京新聞コラム4/25~「奉仕者」としての務めを果たせ
【国際的な免疫学者で、能の創作などでも知られた元東大教授の故・多田富雄さんは二〇〇一年に脳梗塞で倒れ、右半身の麻痺(まひ)と言語障害が残った。嚥下(えんげ)障害でつばものみ込めない。絶望の淵(ふち)で、死の誘惑に駆られたこともあったという▼脳の神経細胞は再生しない。多田さんは懸命のリハビリを続ける中、まったく新しい不思議な生き物が、自分の中で生まれつつあることに気付く▼「得体(えたい)の知れない何かが生まれている。もしそうだとすれば、そいつに会ってやろう。私は新しく生まれるものに期待と希望を持った。新しいものよ、早く目覚めよ」(『寡黙なる巨人』)▼ワープロを使って左手だけで一字ずつ時間をかけて文章を書き始め、やがて新聞のエッセー執筆にも復帰。病前を上回るほど旺盛な執筆活動に励むようになった。脳梗塞から生還した多田さんと、大震災と原発事故で先の見えない不安と闘う被災者の姿が重なる▼未曽有の被害を受けた日本の未来は、これまでの社会構造の延長線上に構築されるのではなく、苦しみの中から新たに生み出されるのではないか。そんなことをいま感じている▼統一地方選後半戦のきのう、東京二十三区で最も多い八十三万人が暮らしている東京都世田谷区の区長選で「脱原発」を訴えた元衆院議員の保坂展人さんが初当選した。「新しいもの」は、確実に動き始めている】
統一地方選後半戦から一夜、今朝の東京新聞の1面トップ・社会面・1面下コラムの話題は全て「『脱原発』を掲げた保坂展人氏の世田谷区長当選」についてでした。見出しでも「脱原発」を強調している辺り、同じ主張をしている東京新聞にしてみればよほど喜ばしい出来事なのでしょう…世田谷で「脱原発」に向けてどんな取り組みができるのかはさっぱり見当がつきませんけど。
ただ、こういった報道の仕方ってのは、報道機関としてどうなんでしょう?確かに世田谷区は人口こそ多いかも知れませんが、この結果自体は同日区長選が行われた13の特別区のたった1つに過ぎません。むしろ全体を眺めてみれば、今回の統一選において、原発反対派の政治勢力はそれほど拡大していないというのが実態のようです→【参考】原発反対派、目立った伸長みられず。それを考えると、保坂氏の当選がそこまで紙面を割くべきニュースであったのか、他に報道機関として報じるべきニュースがなかったのか、甚だ疑問と言えます。
過去に何度も書いていますけれども、報道機関の役割とは、国民が世の中の様々な出来事について正しい判断を下すために必要十分な情報を提供する事です。それをこなしてはじめて、報道機関は「『知る権利』の奉仕者」を名乗り、国民の代行者として行動する事ができるのです。読者から料金まで取りながら、自分たちが流したいニュースだけを流し、世論を特定の報道に誘導しようという連中は、「報道機関」ではなく「扇動者」と呼ぶべきものでしょう。東京新聞は、自分たちの行為はまさに後者に当てはまるのだという事を自覚するべきですね。
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